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ムクツナ・ヒバツナ・ドクツナの小説中心/BLが苦手の方はご注意ください


by kazekirin

ひな祭りの過ごし方(ドクツナの場合・前編)

ボンゴレ世界ではひな祭りは女の子、子供の日は男の子しかお祭りに参加できない。
と、云う訳で、その日、クロームは一人でボンゴレ城に足を運んだ。
「ボス、お招きありがとう」
「いらっしゃい、クローム。早かったねー」
朝八時という、訪ねるには少しばかり考慮が必要な時間だったが、ツナはいつもの朗らかな
笑顔で出迎えてくれた。
「クローム、良かったら着物着る?ラルが着付けてくれるから」
「ラル?」
「あ、クロームは会ったことなかったね。死神界にいる死神の一人。ラルも女性だからひな祭り
に来たんだよ」
言いながら通されたのは城の一室。
「ラルー、クロームが来たんだ。彼女の着付けもしてもらっていいかなー?」
扉を開けた先にいたのは黒地に桃の花を散らせた着物に身を包んだ女性。顔の右側にアザ
があるが、そんなこと気にならないほどの美人だ。
「それは構わんがサワ・・・いや、ツナヨシ。部屋に入る時はノックぐらいしろ」
「ごめん。今度から気をつける」
「それはそうとツナヨシ、今日は何人くらい来る予定なんだ?」
「え~と・・・ここにいるラルとクローム、キョウコちゃんにハルにイーピン。あ、オレガノさんや
M・Mも来るって言ってたな・・・。ハナは仕事があるから遅れるって連絡があったけど、ビアン
キはどうするんだろう・・・?リボーンが来るようなお祭りだったら絶対帰ってくるはずだけど
今日は女の子のお祭りだからなぁ・・・」
「リボーンから聞いた話では、久し振りに馴染みの顔が見たくなったから帰ってくるそうだ。
ということは・・・九人ほどか。少ないな」
「ボンゴレ(うち)、女の子少ないから」
指折り数えて呟くラルに、ツナは苦笑しつつ答える。
「それじゃラル、クロームのことお願いね。オレ、料理の準備してくるから。じゃ、また後でね
クローム」
そう言って身を翻したツナは、相変わらずせわしない足取りでその場を後にした。

「貴女は・・・ボスとは親しいの?」
クロームはラルに着付けてもらいながら尋ねた。
「付き合いは長いな。奴がボンゴレ十代目になる前から・・・ガキの頃から知っているからな」
「ボスがボスになる前から・・・?あんまり想像出来ない」
クロームの知っているツナは最初からボンゴレ十代目であり、とても頼りになる優しい人だ。
それ以外は知らない。
「そうかもしれんな。昔のアイツは泣き虫で臆病で、諦めが早い、どうしようもなくダメな奴だっ
た」
「本当に?」
目を丸くさせ、クロームはラルを見上げた。
「ああ。気になるなら本人に聞いてみるといい。ほら、出来たぞ」
クロームの柄は藍地に桃と蓮の花が咲いていた。右目の眼帯も、いつものドクロマークでは
なく桃の花が刺繍された、華やかな物だ。
「ありがと・・・」
思えば年上の女性に接するのはこの世界に来て初めてのことだ。しかも着替えを手伝って
もらったことなどない。
姉がいたらこんな感じなのかな、と妙にくすぐったい気持ちになるクロームだった。

「ボス」
広間にて目当ての人物を見つけ、声を掛ける。
「!!クローム!うわぁっ!すっごい可愛いよ、よく似合ってる!」
ツナはクロームを目に留めるなり、これ以上ないくらいの笑顔で彼女を絶賛した。
ボキャブラリーに乏しいので、出てくる言葉は在り来たりのものだったが、その飾り気のない
言葉が逆にクロームの心には真っ直ぐに響く。
「ありがと、ボス・・・手伝う」
「だっダメだよ!せっかく綺麗な着物なのに汚れちゃう!それに、あとこの皿を運べば終わり
だから大丈夫だよ」
「そう・・・」
ツナの手伝いが出来なかった事にしょんぼりしたクロームだったが、ラルの言っていたことを
思い出した。
「あの・・・ボス・・・」
「ん?ひな人形見に行く?」
「ううん、後でいい。あのね、ボス・・・ラル・・・さんにボスの子供の時のこと、ちょっと聞いたの」
「!!」
「それでね、私、まだ色んなこと知らないし、判らないことも多いから、ボスともっと話したい
なって・・・ボス・・・!?」
ツナはこちらを凝視していた。
過去を知られた気恥ずかしさや驚愕から・・・と云うような眼差しではない。
まるで、ずっと大事に隠していた宝物を誰かが掘り出している所を見てしまった時のような。
困惑と後悔と、深い哀しみを携えた瞳が自分を映しているのを見て、クロームは言い知れぬ
不安と恐怖に支配され、息を呑んだ。
(どうしよう、どうしよう・・・ボスは聞かれたくなかったのかもしれないのに私、考え無しに・・・
ボス、傷ついてる?悲しんでる?怒ってる?ボスに嫌われちゃったら・・・私、わたし・・・)
悪い考えばかりがグルグルと脳内を駆け巡り、青ざめた顔を俯かせていても、自分の名を
呼ぶ彼の声は届く。
「クローム」
凛とした声に思わずビクリと体を震わせた。
「ごっごめんなさいボス!!今言ったことは・・・」
「城の庭にね、桃の木があるんだ」
「忘れて」、と言おうとしたクロームの声を遮ったのは、ツナの、意外なほど柔らかな言の葉
だった。
「え?」
思わず顔を上げれば、そこには穏やかに微笑むツナの姿が。
「飾る分の花を切りに行くから、良ければ手伝ってくれない?」
そう言うとツナは呆然と見つめるクロームを気にすることなく引き出しから切り花用のハサミや
花を包む為の紙を用意しつつ、更に言葉を紡ぐ。
「歩きながら話でもしようか。ボンゴレのこと、他の世界のこと、それから・・・オレの昔話も」
用意を終えたツナはクロームの返事も待たずスタスタと庭に向かっていく。我に返ったクローム
は慌ててツナの後を追い、問うた。
「でっでもボス!昔のこと、話したくないこともあるんじゃ・・・」
「うん。楽しいことばっかりじゃなかったからね・・・でも・・・それだけじゃないから」
「え・・・?」
ツナはクロームを振り返り、輝きに満ちた笑顔で答えた。

「哀しいことや辛いことを誰にも言わないでほったらかしにしておくのは勿体無いと思ったから」

だって、その中には確かに喜びや幸福だって存在していたのだから。
by kazekirin | 2008-03-04 02:29 | 季節・イベント